『東京探索032』 新宿エリア⑧
「映画の街・新宿」と武蔵野館
新宿ゴールデン街には多くの「文壇バー」があるそうですが、その常連客には文学関係者のほかに映画関係者も多いそうです。新宿には、日比谷と並ぶ「映画の街」というイメージも定着しているのではないでしょうか。
1920(大正9)年、新宿がまだ東京のはずれであった頃、商店主たちが「新宿を人が呼べる文化的な町にしよう」と話し合い、議論の末、資金を出し合って新宿通り沿いの敷地(その後三越新宿店→アルコット→ビックロとなった土地)に、700席を擁する映画館を開館させました。これが「武蔵野館」で、映画ファンから良い作品を上映するとの定評を得ました。特に関東大震災後は、都心部に比べて新宿エリアの被害が少なかったこともあって、連日満員の盛況となったそうです。その頃はまだ無声映画の時代で、字幕が付けられたうえに場面の状況を解説する「活動弁士」がつき、楽士が伴奏として生演奏するクラシック音楽も魅力だったとのこと。
武蔵野館は1928(昭和3)年に現在の新宿駅東口駅前に移転しました。音響性能に優れた円天井、座席数1,200を誇りました。1929(昭和4)年に日本で初めて“トーキー映画”を上映した映画館で、丸の内の「帝国劇場」(当時は松竹の運営となって映画館に転用されていました)、浅草の「大勝館」とともに人気を博したとのことです。当時の新宿にはこの他にも、新歌舞伎座(1933-1960)、ムーランルージュ新宿座(1931-1951)などの劇場や、映画館、カフェなどもあって、当時の賑わいは相当なものだったようです。
日比谷と新宿の映画館の規模ですが、東宝系だけで比べると、2018年3月に東京ミッドタウン日比谷内に開業したTOHOシネマズ日比谷が13スクリーン 、2,800席(宝塚地下の600席を含む)及び車いす席25席なのに対して、TOHOシネマズ新宿は12スクリーン 、2,323席及び車いす席24席です。しかし、新宿には、ほかにシネマコンプレックスが2つ、ミニシアターが6つあります。そのうえ、前々回でご紹介したTOKYU MILLANO計画によって新たに8スクリーンのシネマコンプレックスが導入される見込みで、これによって総スクリーン数は48となりそうです。
新宿は、東京を代表する映画の街になり得るのでしょうか?地の利は申し分ないだけに、周辺の街の文化的な熟度がさらに上がれば、充分に期待できると思います。