『アジア探索019~シンガポール編⑤』
「ガーデンシティ」の着実な実現
「アジア探索シリーズ」シンガポールの探索も今回で5回目、いよいよこの国の強みを探って行きたいと思います。
1965年の独立当時、シンガポールは失業や貧困、人口過密化、インフラ不足など、さまざまな問題に直面していました。李光耀(リー・クワンユー)首相が、絶望の淵から這い上がるためにまず考えたことは、いかにこの小さな国土を元手に経済成長を支える産業を確立できるかということでした。都市を美しくして、人を呼び込むための魅力をどう作るかということも同程度に重要だと考えました。
国家の最優先事項として、比較的安く入居できる公共住宅の建設が掲げられ、住宅開発局(HDB)が設置され、今日までに100万戸近いアパートメントを建設しました。今でも、122万戸の世帯数の80%がこのHDBアパートに住んでいます(2015年の統計)。
さらに李光耀(リー・クワンユー)首相は、シンガポールを「ガーデンシティ」へと発展させるビジョンを打ち出しました。具体的には、「コンセプトプラン」と呼ばれる土地利用・都市づくりの総合計画の中で、緑地が体系的に計画され、着実に具体化されています。現在、国土の面積の3分の1は緑地で、独立した当初の8倍に増えています。マリーナベイ・サンズの裏にある「ガーデンズ・バイ・ザ・ベイ」は、広さ101 haの国立公園で、斬新なデザインの植物園は、「ガーデンシティ」の象徴です。
豊富な緑地のほかに、街中のホテル、オフィスなどでも、「ロイヤルパークホテル」など、中間階に緑あふれるテラスを持った建物が目立ちます。建物の屋上や壁面に緑を取り入れると政府が建築費を最大50%まで援助する仕組みがこの背景にあるのです。
「ガーデンシティ」の概念は、緑だけではなく、街をきれいに維持することにもつながっています。シンガポールは、ゴミ一つ落ちていない清潔な街として有名ですが、1989年から、レストランや公共の場所での喫煙が禁止されたほか、1992年からは国内でのチューインガムの製造、輸入、販売が禁止され、違反者には、厳しい罰金が課されています。よく、Singapore is a Fine City(Fineには「罰金」という意味もある)などと揶揄されていますね。