『アジア探索020~シンガポール編⑥』
都市国家を「国ぐるみ」で経営
これまでもコンパクトシティ、TODなどの概念をご紹介してきましたが、シンガポールでも、1970年代から中心市街地の渋滞対策に取り組んできています。入札を通じた高額な自動車購入権(COE)により、自動車の保有台数を抑制するのとともに、エリア・ライセンス・スキーム(ALS)と呼ばれる規制区域の設定や、ロード・プライシング・スキーム(RPS)と呼ばれる特定区域通行に課金する仕組みが導入されました。特に、1998年からは、エレクトロニック・ロード・プライシング(ERP)が導入され、正確、公平で効率的な課金システムが実施されています。
一方、島国であるシンガポールでは、水資源がアキレス腱であると言われています。現在は大部分をマレーシアからの購入に依存していますが、将来に備えて、下水を完全浄化して再利用する「ニュー・ウォーター」などの研究開発を進めています。このような背景もあってか、インフラ施設の技術は相当蓄積されているようです。
中国では、天津の濱海新区よりさらに東の海沿いに、「中国–シンガポール天津エコシティ」という開発区があります。広さ30k㎡のこのニュータウンは、独自の環境ガイドラインが定められ、風力発電やパイプラインによるゴミ収集システムなどが導入されていますが、これらの先進的なインフラ施設については、シンガポールの企業が計画・設計するだけでなく、投資も行い、建設・運営もしています。蘇州にも、「中国–シンガポール蘇州工業園区」があり、同様にシンガポールの企業が深く関与しています。
このように、シンガポール人が中国の巨大なマーケットにおいて事業を展開していますが、この背景には、シンガポールの官民一体となった「国ぐるみ」のインフラ輸出戦略が見て取れます。これは私見ですが、もう一つの成功要因として、ほとんどのシンガポール企業が「華人」によって運営されており、中国の地方政府要人とも、中国語で意思疎通できることがあるのではないでしょうか?