『アジア探索005~上海編⑤』
旧フランス租界に拡がるファッショナブルな世界
上海・浦西(黄浦江西側の旧市街地エリア)の「旧フランス租界」は、外灘から主として淮海路に沿って西に進む一帯に広がっています。
上海の街路網は、北京とは全く異なっていて、グリッドを形成するほぼ真っ直ぐな街路もありますが、多くの道は斜めに通っていて、それらのややランク低い道路には車もそれほど多くなく、散歩しやすい道が多いのが特徴です。
「フランス租界」を代表する街路である衡山路や新華路は、補助幹線道路です、青桐の並木が木漏れ日のトンネルを作っている印象的な街路です。沿道にはフランス人がかつて居留していた洋館を改装したホテルや、フレンチレストランなどが点在しています。これらの街路やそこから派生する東平路、桃江路などを散歩すると、ゆったりと時間が流れているのを感じます。
「新天地」は、このような旧フランス租界の一角に、上海特有の民家である「石庫門建築」を計画的に保存改修して造った商業街です。「石庫門建築」は1860年代から作られるようになった上海特有の中洋折衷型の伝統建築で、赤レンガまたは黒レンガ積みの外壁に玄関部分は石の三方枠を持つ様式で、中にはイタリア古典主義建築を思わせるような装飾の施された優美なものもあります。以前は上海の住宅の60%がこの石庫門建築であったといわれていますが、しだいに減ってしまっている中、このようにレトロな雰囲気を利用した商業建築として保存活用されている例もあるのです。
新天地から南西に1kmほど、泰康路から一歩入った一角に「田子坊」があります。田子坊は、道幅2mから4m程度の迷路のような路地空間に、各国料理のレストラン、オープンカフェ、アトリエ、美術品や小物のショップがところ狭しと並ぶユニークな空間です。1999年、陳逸飛という有名な画家・彫刻家がいわゆる「里弄住宅」の内部に、自らの工房を作ったのが始まりで、共感した芸術家たちが次々にアトリエを開設、集まってくる人々を対象にレストラン・バーなどが増えていった自然発生的な商業空間です。
現在でも隣接する一部のゾーンに元から住んでいた人々が生活を守っている一方、上海市政府もこの活力ある都市更新が名所となっていることを評価して用途変更を認めており、エリアは徐々に拡大し続けています。もともと泰康路に面した一角には小さな食品市場があり、あとは3条の路地が泰康路に垂直に伸びていたのですが、これらが回遊できるように横にもつながって迷路のような空間が形成されています。雑貨のお店を通り抜けなければ回遊できないような箇所もあり、行くたびに新しいお店ができているような気がします。
ほかにも、思南公館、東湖路一帯など、やや狭い街路の中にも屋敷森に囲まれた雰囲気のある街路の随所に隠れ家的なレストランなどがあるファッショナブルな世界が拡がっており、これらを発見することが上海を訪れる楽しみの一つになっています。