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2017.09.05

『わが国の都市をめぐる今日的課題004』公共交通指向型都市開発=TOD(Transit Oriented Development)

TODとは、ニューアーバニズムを説く都市計画家ピーター・カルソープによって提唱された考え方で、公共交通機関を基盤として自動車に依存しない地域・都市を目指すべく、都心駅周辺に商業施設を重点配置、郊外駅周辺には住宅地を造成する考え方です。パークアンドライドの推進も含まれます。
近年、交通渋滞に悩む中国や東南アジアでも、TODの概念が注目されていますが、わが国における都市開発は、もともと鉄道に依存しており、100年前から民間鉄道会社における鉄道開発・沿線住宅開発・都心ターミナル駅の百貨店開発が行われてきました。以来、TODが開発のモデルとして定着しています。1960年代以降のモータリゼーションによる路面電車撤廃はありましたが、交通渋滞による遅れが敬遠される社会風土、駐車料金の高さ、企業が公共交通の交通費を支給する仕組みなどが相俟って、東京の公共交通依存度は86%程度と他国の大都市のそれを大きく上回っています。
一方で地方都市を見ると、1990年代から郊外ロードサイド型の巨大ショッピングセンターの立地などの影響で、街路や駐車場の整備が不十分な中心市街地に「シャッター商店街」が生まれるなど、空洞化が目立つようになりました。今後さらに高齢化が進む中で、このような現象は移動手段のない「交通弱者」の生活利便性を低下させるものですし、都心部が使われなくなることは公共投資の効率を悪化させるものです。
「アクティブシニア」が都心や駅に近い集合住宅への居住を志向する一方、車が欠かせない郊外では高齢者による交通事故が後を絶ちません。そのような中で、AI・IoTによる自動運転や安全確保の仕組みの研究により、郊外や過疎地にも高齢者が安全に住める社会が期待されています。
2020年に向けて東京の「インバウンド対応」が注目されていますが、スマートフォンの地図・路線検索アプリにより、外国からの旅行者でも公共交通機関を自在に使いこなせる時代はすでに到来しています。さらに、Free Wi-Fiサービスの拡大、タクシー配車アプリや電子マネー決済の一般化は加速するでしょう(これらの点は中国の方が一歩先を行っている状況です)。都市づくりの前提条件である「モビリティ」の概念が大きく変わろうとしていますが、根幹となる公共交通インフラに関しては日本・東京が世界第一級の水準であることは間違いありません。
また、都心のオフィスビル供給市場においては地下鉄駅と直結しているか否かが競争力に影響するため、新たな大規模開発には地下鉄駅と結ぶ事例が多くなっています。2014年に竣工した虎ノ門ヒルズは現時点では地下鉄と結ばれていませんが、2020年に供用開始予定の日比谷線虎ノ門新駅と地下通路でつながる予定で、併せて虎ノ門ヒルズステーションタワー(仮称)が2022年竣工予定です。

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